第2回つどい/吃音児を持つ親の集い(1998年10月)
パネルディスカッション
行われたパネルディスカッションの紹介です。
パネラー5人の紹介
綾部泰雄 | 「まつり」の脚本作者。横浜市立幸ヶ谷小学校ことばの教室教諭 |
高橋良晴 |
「まつり」の演出者。 東京言友会演劇部の芝居の演出多数。吃音児(小3の娘さん)を持つ父親でもある。 |
成清 靖二 | 「まつり」に役者として出演 |
児嶋和子 | 江東区立南陽小学校ことばの教室教諭。卒業生の吃音児のフォローケアのため、実行委員としてこのつどいの準備に携わる。 |
司会 | 佐藤隆治 |
ディスカッションダイジェスト
綾部 |
私自身かつて吃っていたというか、今でも場面によっては吃りますが、ほとんど忘れています。吃る場面というのはなんとも言えない瞬間なんですよね。 先ほど舞台の上でそれを誇張した形で、吃る場面が展開されたわけですけれども、その時にお母さん方がどんな感じをしたのか、後でゆっくりお聞きしたいなと思いますが、見る方もつらい、見られる方もつらい、お互いつらい瞬間があるわけですけれども、どうにもならないんですね。 どうすりゃあいいんだろうかとずっと考えてきましたけれども、私自身どうされたら一番楽なのかと言いますと、いや逆に言えばどうされたらつらいかといいますと、黙ってられるのがつらかったですね。 吃っている私がいるわけですから、有る物を有るように言ってくれるのが一番楽だった。有る物を無いかのごとくされるのが、ほんとつらい。そんな思いが相当強かったものですから、それが今回の(脚本を書いた)動機なんです。ですからおかしいものは笑ってもらった方がいい。 嘲笑するんじゃなく、やはりある物が有りますねっといった形でお互い共有できる関係というか、そういう人がいてくれてたら良かったなあと思います。ここではユーモアといった言葉で書きましたけれども、別に吃音だけではなく、我々、背が低いだとかいろいろコンプレックスが有ります。 そこに、こういう芝居の精神でもって接してくれる人がいたら良かったなあと思います。 |
高橋 | 僕も小さい時からどもりだった。どもりだったために47歳まで、同級生にはもう絶対負けたくないよといった気持ちで頑張って、まあそれなりの人間になれたなと思っているんだけど、自分の子供がどもりになっちゃって、ワイフに、「あなたが吃るから子供がこうなんですよ!」と言われて、ああそうか、どもりってまじめに考えないとだめだなと思って、いろいろ探ったけど、良い所が無くて最後にたどり着いたのが、この言友会です。 そこでいろいろ教わった事有って、自分の子供のために僕がどもりを持ったままの人間でこういう風にも生きたんだよっていう証を立てないとだめなんだなあと思い始めて、吃りのままで何かをやってみようとたどり着いたら、なんだかお芝居にどっぷり入っちゃって、キチガイだと言われているんだが。僕はお芝居をする(演出する)時に「吃りを治しなさいよ。」と一言も言った事ないし、恥ずかしいだろうけども、吃るままやることが僕らに課せられた問題で、吃ってても感動はさせられると思うし、僕もそう(綾部氏と同じ)なんだが、こうしてしゃべる時は意外と流暢のように聞こえるんですよね。 僕も心を許した人間としゃべる時は吃ります。という事は吃る瞬間の方が、僕にとっては楽しいし、良い時なのね。僕が吃るっていう事は相手に敵愾心が無い、相手から攻撃されないんだよといった条件で吃るから、吃れる人間関係の方が幸せなんですよ。 逆に言えば、吃れる瞬間を与えてくれるような人間関係が欲しいな。ましてや、親が吃っちゃだめって言っちゃあ。親の前で吃りたいんだよ、思いっきり吃りたいんだよと思う子供に対して、それは酷じゃないのかな、思いっきり吃りなさいよというくらいの腹を据えた親になって欲しいなと思います。 |
成清 | 私が吃音で悩み出したのは小学生くらいからです。社会人になって、2,3年目が一番きつくて、自己紹介なんかもできなくて、名前言うだけで3分とかかかってました。 吃音が悪化した原因として、吃っちゃいけないというような気持ちが非常に自分の中に有って、ずっと治そう治そうと一日中吃音の事ばかり考えていたのが20代前半でした。 もう治らなくて、いろんな薬とか、飲んだ時も有ったんですけど、いろんなきっかけが有って、吃っても良いじゃないかと自分で考えられるようになってからは吃音の悪化は無くなったように感じます。自分としては、どもりだから何々できないとか言われてきたんで、吃っていてもできるという事を証明したくて、現在やってます。 |
児嶋 | 現在吃音のお子さんを2人見ています。教室には全部で11人います。
ことばの教室では高橋さんがおっしゃったように、私の前では、ほんとは自分の教室でもそうだと思うんですが、いっぱい吃ってお話して欲しいと思います。ただ私が見ている3年生の男の子は吃るのが恥ずかしいとか笑われるとかが有るので、何とかつまらないようにいろいろ工夫しているんですが、それが「確か」という言葉を付ける工夫になってしまったと思います。私は学校の先生の所へ行っていろいろ話をします。 「たとえ吃ったとしても笑わないで欲しい。吃る事よりもその子が何を言いたいか聞いて欲しい。クラスの友達にもそういった事を伝えていって欲しい。」、と。 また教室では、声を出すのがすごくつらい女性には楽に吃るにはどんな風にすればいいのかと一緒に考えたり、吃ってでも楽しくお話ができるという事を分かって欲しいなと思って指導しています。 教室には難聴のお子さんとか、発音のお子さんとかいろんなお子さんがいるんですが、吃音のお子さんはこれで治せる方法が自分の中に無いし、人各々違うので難しい。 そしてことばの教室は小学校までしかなく、むしろ中学、高校になった時に、悩みが出てくるのかなと思うんだけど、そういう時に私がどういう風にその子達と関われるのかなと考えた時、この東京言友会の方達にヒントをもらえるんじゃないかと思い、一昨年から会の人たちと関わっています。 |
司会 | 芝居の感想をお母さん方から頂きたいのですが? |
お母さん1 | 最初はちょっとなんか暗い。最後の方はだんだんユーモアが有って少し笑えましたが。 |
司会 | ことばの教室の先生としての御感想は? |
児嶋 | 演じている皆さんのエネルギーと言うか、最初演じている時、恥ずかしくて顔を上げられなかったが、二回、三回演じていくうちに顔を上げる事ができるようになったとかいう話を聞きましたが、やってみようという気持ち、自分を吃ってでも表現したいという気持ちがすばらしいなと思いました。 |
高橋 | お願いが有るんだけど、お子さんで僕らと同じ吃音の方、実際、どんな風に感じたか、あるいは自分の吃りに対してどう考えているのか聞かせて欲しい。 |
学生1 | 吃る事で笑われたりするので嫌だなあと思います。 |
学生2 | まつりという芝居を見て自分だけじゃないんだなあと思ったし、あと学校とかでも先生に指されたり、自己紹介とかする時、自分の名前で吃っちゃったり、それを真似されたりしてすごくつらい時とか、学校に行きたくないなと思った時があって、中学1,2年生までは余り気にしていなかったけど、3年生になってからはいきなり感じ始めちゃったので、やはり治した方が良いのかなと思うようになってきて。 |
高橋 | 僕から皆さんに一つ聞いていい? (学生1)君、あなたは変な子を笑う事無い? おしっこもらしちゃった子を、変だと笑っちゃった事無いですかね?ありますよね。 その時、どういう笑いだった?嫌だ、こいつと思って笑った? 自分達が笑う時そんな風に感じないのに、どうして自分が笑われると変な目で見られていると感じるの?変じゃないの? 自分らだって笑う事有るよね。ただ決してそんなに変な目で笑われているわけじゃあない。自分も笑う事有るんだから、自分もちょっと笑われたら、もう許す心持とうよ。そういう心ないとユーモアのある人間関係になれないよ。おかしくたって笑えないとつらいよね。変な子がいたら、おしっこもらしちゃった、ワーイと笑うよね。もう吃って、ワーイと笑われても良いもんね。 おしっこもらす子でも頑張っていくんですよ。僕が中学校の修学旅行で、おしっこどうしてもだめな女の子がいて、旅行が恐くてどうしようもないと泣いた子がいたの。 いいよ、僕が面倒見てあげるから行こうよと言ったのよ。僕はどもりだからそういう苦労が分かるのよね。 だから皆さんは、自分がそういう苦労持っているなら逆にそういう立場の子を、真剣に考えてあげられるいい子なんです。手を差し伸べ合う心を持とうよ。 そして吃りながらも頑張る姿見せれば、おしっこの子も頑張ろうという心に変わるから。 |
綾部 | 笑われる事に関してはそれがどうしたんだと言うスタンスが取れればいいかなと思ってます。 あってどうしていけないの?と思ってます。夜尿が有ってどうしていけないの? 夜尿はやっぱり困るねと言うしかないですよね。頑張れと言うかどうかは別だけどね。背が低くたってそれがどうしたのと思えるような感受性がいいんじゃないかな。 背が低いから頑張りなさいじゃなくて、背が低いのまあいいんじゃないのと思えるといいなあ。お互い様っていう感じ。 |
児嶋 | 小学校の時背が低いっていうの言われるんですよね。でもそれが気になら無くなるのはやはりかなり後で、高校の頃までは、周りに良く思われたいという気持ちが有りますから。 吃音の場合はやはりすらすら話せるようになったらいいなあと思うでしょう。そして苦しむと思います。そこをどういう風に乗り越えていくかはお母さんも心配するでしょう。 面白かったら笑うでしょうと言ってそれですんなり腑に落ちるかと言うと、なかなか腑に落ちないのが人間なんじゃないかなあと思うんですけど。でもここに来てくれたという事はその悩みに立ち向かいつつあるのかなと思います。 |
高橋 | 左手でおはし持つ人、右手で食べろと言っても食べられないでしょ。それといっしょで吃るのみっともないから吃らずにしゃべろと言ってもしゃべられない。
自分の体そんなに簡単に自分で治せるものじゃない。多分。もしそんな事できたら、みんなオリンピックでメダル取っちゃう。 恥ずかしい事は人間これから吃り以外にもいっぱい有るわけだよ。おじさんは髪が抜けちゃって禿げちゃって恥ずかしいよ。ただおじさんは吃り恥ずかしい事堂々とやってきたから、禿ても恥ずかしくなんかないや。 恥ずかしい事恥ずかしいと思って人生終わるのか。左手で食べる事恥ずかしい事じゃないんだよと考えるのか。お母さんが頑張ったって変わりませんよね。あなた方みんなが自分の心を自分で変えないと。でもなかなかそれが難しいんだよね。おじさんくらいになれば別だけど。 |
綾部 | おじさんはどうして恥ずかしくなくなったのですか? |
高橋 | こんな所でいろいろしゃべったりまたしたい演劇しているうちに、みんなの前で恥ずかしい事しているうちに恥ずかしくなくなってくるんですよね。 |
お母さん2 | 我慢に限度が有るんですよね。逃げるのもいい事じゃないですか?たまには。 |
高橋 | いい事ですね。それは年齢によってですね。 昨日たまたま東京言友会で47歳の男性と一緒になったの。会社であなたもうそろそろ話す職場に変わらんとだめだよと言われてやめたんだって、会社を。その時彼に聞いたよ。あなたもしかして結婚されてないんじゃないんですかって。その通りでした。47歳で所帯持ってたらそんなことできないよ。 |
お母さん2 | 逃げたらいいじゃない?年取ってからでも。 |
高橋 | 逃げたらワイフにも離婚だって言われるね、俺だったら。 |
お母さん2 | それはワイフに問題ある。 |
高橋 | 俺のワイフなら多分怒るね。あなた吃りくらいで会社やめて明日からの生活どうするの?ふざけるんじゃないって。 |
お母さん2 | 奥様仕事すればいい。 |
高橋 | そういうワイフには僕、惚れたくない。今は逃げてもいいよ、ただもう逃げられない時、あなた達のお母さん、逃げられないからこうやって頑張っているんだよ。 |
綾部 | 私の中学校時代、逃げられたら良かったなあと今、思いますね。逃げる元気が無かった、勇気が無かったというか、当時はまだ登校拒否というレパートリーが無かった。(笑い) 今だから簡単に割とやれそうだけれどねえ。昔は休むと言う発想が無かったですね。自由に休めたり自由に避難してもいいような環境は必要かもしれませんね。 ちょっと休んだりしているうちに、建て直してくれるといい。 |
成清 |
逃げたって別にかまわないと思います。でも自分は病院で働いて一日中、人と接していますけど、笑われるのは最初だけです。 他の人はそんなに吃音の事をおかしいという風には見てないんじゃないかと自分で感じますし。吃りながらも他の人と同じように仕事はしてますから。 |
司会 | むずかしいのはそういった心境に到達するまでいろいろ大変な苦労する事だと思うのですが、そういった心境に到達するまでの話で何か? |
成清 | 昔はやはり吃音を隠そう隠そうとして来ましたが、障害を持った人との関わりがきっかけで、隠す自分が何かみっともないなという感じを受けて、徐々に吃音を出していったんです。 勇気がいりきついことでした。そこで一つ感じたのは他の人は自分が吃音であってもそんなに気にしていないということで、かえって自分が吃音を気にしている時はあまり吃ってなくても付き合いにくそうにしてるし、結構吃っている時でも自分が気にしていない時はそんなに向こうも気にしていないという事が分かってきて、徐々に気持ちが楽になって来ました。 |
綾部 | かつての成清さん、長いお付き合いですけど、ほんと重かったですね。(笑い) さっきも自分で言ってたけど。こういう場でしゃべれるとは予想もつかなかった。 いろんな体験の中で変わってこられたんだなあと思います。吃ってもいいと思ったというのがキーワードですね。 |
司会 | 今日おみえの若い方々、何か感想でも? |
学生3 | 僕の場合、どもりを治そうとして治ったんじゃないんですよ。吃って笑われてもこれは自分の性格だから笑え笑えと、やっていくうちにみんなも笑わなくなって。 あんまり気にしない事でどもりは治るんじゃないかなと思います。 |
綾部 | でも気になっちゃうって場合が有るじゃないですか。そういう人になんてアドバイスできますかね? |
学生3のお母さん | うちの子はお笑い系なんですね。吃ってもわあ受けたって喜んじゃったり、目立ったり人前で笑われる事がすごく好きみたいなんですね。 |
高橋 | でもあなたすごいね、僕の場合その心境になったの、40過ぎだよ。あなた14歳? |
学生3のお母さん | 環境がすごく重要で、だからこういう場所に来て、いろんな人の話を聞くのがいいと思います。ことばの教室は小学校までだから、今日無理矢理、文句言うけど連れてきたんです。 偉そうな事言うけど、これからです、本人が苦労するのは。 |
綾部 | そういう性格はもともとでしょ?小さい時から。笑われるともううれしくなっちゃうとか。 |
学生3 | 笑われる事が俺の喜びですね。 |
高橋 | 芝居やろう、今度、一緒に。 |
綾部 | お母さんはそうやって育てられたのですね。 |
学生3のお母さん | いえそういう訳じゃないんですけど。(笑い) |
綾部 | お母さん、子育てのこつを教えてもらいたいものですね。ことばの教室も小学校の頃、行かれたんですか?で何しに行ったの? |
学生3 | そう言われても困るけど、どもりを治しに行ったんです。治すっていうか遊んでたんです。 |
綾部 | それが良かったのかもね。 |
学生3のお母さん | ことばの教室に親は真剣に悩んで入れてもらったのですが、本人は授業サボって遊びに行ける場所だから、他の子に自慢するんです。 僕はこういう所に行ってこんな遊びができるとか。普通だったら授業中抜けていくんだから、あいつは一体何やってるんだとか、他の友達が何考えてるか気にするんですけど。 なんかそう、人と違うのが得したと思うような捉え方が小さい頃からできていたから私も救われたなあと思います。 |
綾部 | お母さんの性格ですね。お母さん明るそうですね。 学生3めっちゃ明るいですから。(笑い) |
綾部 | ただ問題はみんながあなたのようにやれる訳ではないと言う事なんですね。 それぞれ性格が違うように。貴重な体験聞かせていただき有り難うございました。 |
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No.1 – 表紙
No.2 – 演劇「まつり」に寄せて
No.3 – パネルディスカッション
No.4 – 参加者の感想